キタの夜を、スリーピースにウエスタンブーツで、私がコソコソ歩いていた頃に、たぶぅーさんの店で見城さんが飲んでいたとは。 当たり前だけれど、その頃にはそんなことを知る由もなく、見城さんの顔も名前も知らず、しかし編集した本は何冊も持っていて、それでいて月刊カドカワは買わない。 尾崎豊は恥ずかしいのだ。ガキの聴く説教音楽、それを啓蒙する雑誌になど、断じて手を出さない。 カリスマといったって、中高生とか女子供相手だろう。 こっちはブラックさ。マービン・ゲイにJBだ。 ロックならCharや佐野元春は別格として、好きなのはパンクスだ。スターリン、大江慎也、THe ROCKERS・陣内孝則。 もしくはアメリカのジャーニー、あるいはUKのキンクス、ツェッペリンからデュランデュランまで。 たまに谷山浩子や谷村有美も聴く。 我ながら支離滅裂だが、洒落ててちょっと亜流がカッコいいんだぜ。 中のちょっと上のクラスのウチの店では、カラオケはあるにはあったが、歌うお客様はほとんどおられず、何回か河島英五か『月のあかり』が歌われるくらい。使うのは、閉店の『星屑のステージ』の時だけ、みたいな夜が多かった。渾身の副店長の私の歌唱で。笑 店のあるキタの片隅が、夕方から停電になり、復旧したのが午後10:00過ぎ、という日があった。飲み客は他の区域へと流れてしまい、女の子も帰らせてしまったので、残った黒服と私とで、あまり使わないカラオケ装置に仕事をさせよう、という感じで、歌合戦兼飲み会がはじまった。 入って三日目だか四日目だかの大学生のアルバイトの子が歌ったのが『Scrambling Rock'n Roll』。 なかなか良いビートだ。聴かず嫌いだったかな。「自由になりたくないか」。なりたい、なりたい、なりたいですよー。なんて思いながら、自分の番で歌う曲を、分厚い冊子をめくりながら探していると、その歌詞が飛び込んできた。 「奪い合いの街角で 夢を消しちゃいけないよ 見栄と偏見の吹き溜まり 『気をつけて 真っ直ぐ 歩いて欲しいよ』」 ヤラれた。 撃ち抜かれた。 恥ずかしいのは私の方だ。 わかっているのは尾崎だ。 この歌は、辛いことだらけの真っ暗闇を、踠き苦しみ、嘆息し、それでも諦めずに進んでいる者にしか書けない。現実の真実をあばき、そしてそこを進む全ての人々へと、途轍もなく優しい歌を、尾崎豊は慟哭かのように激しく叫んでいる。 いや、唄ってるのは、ウチのペーペーだけれども。笑 刺さった。 もっと聴きたい、尾崎豊の「言葉」を。 他の黒服に「知ってる尾崎の歌を」と頼むと、みんなは快諾してくれて、そこからは尾崎縛りのカラオケメドレーとなった。もちろん全く尾崎豊を知らない私は聴くだけ。しかも本人じゃない歌唱を、巧拙とりまぜて延々と聴く。 それでもハマった。 次の日にはアルバムを全部揃えた。 月刊カドカワも買った。 読んだ。 バックナンバーも漁りまくった。 やがては、泥酔して泣きながら『シェリー』を唄うほどにハマりまくった。 見城さんの飲みシロの、微細な一助？になったと思えば、良い思い出なんです。笑 ( ｡･_･｡ )