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たんだと思う。  とにかくわたしの人生はずっと、がんじがらめだった。  多くの問題を抱えたままそれを誰にも言えずお酒に逃げ、最低限の仕事だけしながら毎日呑(の)んだくれて過ごし、だけど一度は成功を手にした経験から、このままじゃだめだ、わたしは絶対にその気になればまたいつだって復活できるんだとどこかでぼんやり思いながら時は過ぎ、20代半ばになったころ、わたしと夫は出会った。  彼と出会ったころのわたしはとても神経質で、自分とまったく向き合えていないから本質的なことがなにもわからず、『普通じゃない』恥ずかしさをいつもなにかのせいにしていた。ささいなことで怒り、泣き叫び、自分を受け入れられない分他人のことも受け入れられなかった。わたしの周りにいてくれた数少ない友達はきっといつも気を使って、わたしの調子が悪いときは腫(は)れ物に触るように関わってくれていたのではないかと思う。  でも彼だけはいつも真っ直ぐわたしに意見を言ってきて、わたしはそうされてるうちに、普通にできないと決めつけていたのは自分で、もしかしたらわたしは自分で思っているより普通なのかもしれない、彼がわたしのことを、『普通にできない人』として扱ったことは一度もないのだから! と自信がつき、わたしは彼に褒めてもらいたくて最低限しかせず逃げ続けていた仕事をもっとしてみようと思うようになった。  わたしが仕事をしたくなったタイミングはきっととてもよかったのだろう。昔のようにとまではいかなくても、次から次へと毎日が撮影で埋まっていった。本屋さんにはまたわたしの表紙がいくつも並び、それなりの収入も得て、両親に背負わされた理不尽な借金もようやく返し終わっていた。  呑んだくれ時代わたしは、流行なんてどうでもいい、着飾るなんてばかみたい、とぼろぼろの服ばかり着て人生を前向きに捉えることを放棄していたけれど、わたしはみんなみたいに普通にできるんだ‼︎ と浮き足立ってからは世の中に名の知れたそうそうたる成功者たちが暮らす超高級マンションの一室に自宅を構え、その中の一部屋を巨大なクローゼットへと改築し、数々の展示会に顔を出しては服を買い漁りその部屋をいつも『今季の服』でいっぱいにして、ブランドもののバッグや靴を並べた。  それでもまだわたしは、幸せじゃなかった。  都会で常に雑音と凄まじい量の情報につきまとわれながら、おしゃれなレストランでキラキラ女子たちと新作のブランドバッグをそれとなく披露し合い、胃もたれ決定のお

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    ウチの庭の、金木犀。
    花が、咲き誇りまくっちょります ©︎ろこ。
    薫りを、振り撒きまくっちょります ©︎ろこ。


    金木犀を見ると、私は小学校の「手洗所」を思い出すんです。

    木造二階建ての校舎に、千人からの児童が通う、マンモス小学校だった、我が母校。
    裏門のそばに、別棟でトイレが建ててありました。
    石の壁に用をたして、下の幅広な溝を流してるいく、小便所。
    もちろん汲み取り式の、大便所。
    風が吹くと、カラカラと音を立てて回るトップエンドがついた、あまり役に立っていそうもない、排気用の煙突。

    母校の、百年からの歴史を物語る、古い古い作りの、「手洗所」の看板も凛々しい、由緒正しきトイレだったんです。

    そのそばに、消臭用も兼ねてでしょう、大きな金木犀が植えられていました。
    秋の盛りには、それはもう甘くて芳しい薫りで、トイレの悪臭を和らげてくれていたんです。


    金木犀で思い出す、もう一つのもの。
    それは、あの曲なんです。

    鳳晶子さんの「みだれ髪」を入れた歌詞から、「明星」を「みやうじやう」と読む粋。
    与謝野鉄幹との道ならぬ恋の、自らの熱情を歌った歌集を持ってくる若さ。
    「あの高速道路の〜」の疾走感は、晶子の熱い歌の引用で、よりその勢いを増すように感じられます。

    一発屋でしたが(失礼)、この曲は、私には忘れえぬ名曲なんです。

    それでは聴いてください、
    キンモクセイで
    『二人のアカボシ』



    ( 。・_・。 ) 53

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    ホワイト

    『二人のアカボシ』
    演奏:キンモクセイ
    作詞:伊藤俊吾
    作曲:伊藤俊吾

    夜明けの街 今は こんなに
    静かなのに また これから 始まるんだね
    眠る埋立地(うみべ)と 化学工場の
    煙突に 星が 一つ 二つ 吸い込まれ

    沢山 並んだ 街の蛍たちも
    始まる今日に 負けて
    見えなくなってゆく
    君とも 離れることになる

    あの 高速道路の橋を
    駆け抜けて 君 連れたまま
    二人 ここから
    遠くへと 逃げ去ってしまおうか

    消えそうに 欠けてゆく月と
    被さる雲は そのままに
    二人のアカボシ
    遠くへと 連れ去ってしまおうか


    橋の継ぎ目と 二人に届く
    電波には 懐かしいあのメロディーが
    聞こえてるかい 「みだれ髪」に
    沁みるよう 明星(みやうじやう) 遥か 彼方へ

    見渡せば 青 続く信号機が
    二人の想いを
    照らせばいいのにな
    明日の僕らは 何処にいる

    また 今日も 汚れてく街は
    蝕む煙を 吐き出す
    君の 知らない
    遠くへと 連れ去ってしまおうか

    瞬かない星が 一つ
    夜明けの街に 消えてゆく
    二人 ここから
    宛てのない明日を 探そうか



    僕の決意と 伝えきれない
    想いが 街の音に 消えないうちに

    朝焼けの水蒸気が
    隣の空を彩る
    懐かしいメロディーは
    風と共に 終わる
    君の 髪の毛が 震えてる

    あの 高速道路の橋を
    駆け抜けて 君 連れたまま
    二人 ここから
    遠くへと 逃げ去ってしまおうか

    さようなら 街の灯りと
    月夜と 二人のアカボシ
    最後の想いは
    君が 振り向く前に 話そうか


    夜明けの街

    夜明けの街

    夜明けの街



    ( 。・_・。 ) ♪

    #二人のアカボシ
    #キンモクセイ