この一節を語ろう 第８回 人はみな不器用で 泳ぎ方を忘れる 喜びや悲しみに 足がつかずに 溺れそうで・・・ 「水のないプール」SKE48 本当に毎日じたばたしている。いい歳取ってるのに何も変わらない。 毎日失敗をする。何度同じ失敗を繰り返すのかと思う。 ビート板を思い出す。あれにしがみついて足をバタバタするのだけどさっぱり進まない。でも足を止めると沈むからやはりバタバタするしかない。情けないくらい必死だった。 さてこの一節、「制服の芽」公演の本編ラストを飾る「水のないプール」のサビにあたる。 激しい公演のラストに響く静謐なメロディーと、目の前で必死に何かを掴もうとしているメンバーたちの姿に、言葉が言葉を超えて胸を掴む一節である。 この一節には”優しい眼差し”がある。落ち葉に覆われたプールを見ながら、こんな言葉が出てくるのはいつも誰かを見守っているからだ。 深く優しい眼差しの先にこそ映るものがあるのだろう。ただのコンクリートの塊と化した秋のプールに、やがて水が入り、塩素がまかれ、生徒たちは水しぶきを上げてはしゃぎ、先生のホイッスルがピーーっと響く。 プールの隅で泳げずにぷかぷかとただ浮いてる生徒、豪快な飛び込みでお騒がせな生徒、美しいクロールの生徒がいる。それぞれに家族がいて、それぞれの悩みがあって夢もある。 眼差しの先に広がる光景とそれぞれの心象風景、そこに深く深く想いを寄せなければこんな一節は出て来ないのではないだろうか。 みんな自分の事で必死、生きて行くのに精一杯。必死に足をバタバタさせている。でもその中でほんの少しでも優しい眼差しを向ける事は出来ないだろうか。周囲の人を見守る事は出来ないだろうか。この一節にはそんな気持ちを呼び起こす優しさに満ちている。 想いや願いはきっと万物に宿っている。しかし私たちはそれを見逃している。もしくはみずから目を塞いでいる。それで良いのか。 優しさやいたわりのない世界は水のないプールのように、意味のないコンクリートの塊なんだ。だから私たちも優しさの眼差しで世界を見ようじゃないか。 私はこの一節にそんな想いを感じるのである。