この一節を語ろう 第30回 ハッピーエンドは 夢が覚めた後で 言葉や仕草のその全て 記憶に残しておきたいから 最終回まで あとどれくらいだろう 涙もあっていいけど ちゃんと笑顔で終わらせて欲しい 「ハッピーエンド」レナッチーズ（AKB48） 作詞:秋元康 作曲:外山大輔 イチローがシアトルマリナーズの会長特別補佐に就任した。これは実質選手としての第一線から退くことを意味している。 一野球人としてのイチローへの想いは語り尽くせないものであるし、人それぞれに込み上げるものや思い返す場面があるだろう。だからそれは語らないとして、シアトルマリナーズには感謝の意を表さずにはいられない。 思い出すのは彼が突然シアトルからヤンキースへトレードされた時のこと、球団の看板選手がホームグラウンドの試合で反対側のベンチに座るという信じ難い場面だった。球団と選手お互いの考えが一致したトレードとは言え、それは何か寂しくもあり後味の悪さが残る記憶として残っていた。 ヤンキースで数シーズンを過ごした後、マーリンズで第4の外野手として活躍したイチローであったが、この2018年のシーズンは開幕が近づいても所属球団が決まらず、一時はこのまま引退かと思われた。しかしそこで声をかけた球団があった。古巣マリナーズである。 この契約は見る者によっては同情的なものに映ったかも知れない。しかしながら私にはこの契約は、あの時失った大切な何かを取り戻すものであるとともに、未来へ前向きに一歩を踏み出すものだったと思っている。お互いにとって。 マリナーズに帰ってからのイチローは簡単に言うと、こてんぱんにやられた。44打数9安打の2割5厘、いくらスロースターターのイチローとは言え、かつて４割打者に最も近いとされた打撃はそこになかったのである。 しかしこれはアスリートとして理想の姿である。全てをかけて挑み、いくつかの栄光を手にして、最後には叩きのめされるのがアスリートのピリオドなのだ。もしマリナーズが彼をメジャーフィールドに戻してくれなかったら、イチローのメジャーリーガーとしての物語は未完のままひっそりと幕を閉じたことだろう。 「この時間は僕の（メジャー）18年の中で最も幸せな2ヶ月間だったと思います。」 この言葉が全てを物語っている。イチローの失われたホームグラウンドと最後の挑戦、そして敗北というピリオドを与えたシアトルマリナーズには、一ファンとして最大の感謝の意を表したい。そして彼に次の使命を与えたことにも。 球団と選手を巡るこのストーリーには、メジャーリーグの懐の深さを見せつけられるとともに、ベースボールの偉大さをあらためて思い知らされた。 ところでこの一節、サビとしては珍しく長い一文構成となっている。理由としては文章の並べ方がユニークであるために、このように長い一文となっているが、それは年齢による衰えを感じさせず長い長い現役生活を続けるイチローのようである。彼の一つの終わりと新たな挑戦の始まりに添えてこの一節を。