高橋みなみ警部補の事件簿〜ネズミは運動場に潜む〜
トーク情報- くるん
くるん 警視庁の守衛に敬礼し、白い廊下を通って、いつもの部屋に入り、同じ一課のメンバーに挨拶を済ませて自分のデスクにつく。
書類の整理をしていると、最近まで部下として共に活動していた若田巡査部長を思い出した。
彼はバカがつくほどの真面目で几帳面な性格だったが、短気で性急なところが玉に傷だった。そんな彼だったから例の抜暮南警察署管内連続暴行事件での高橋みなみの立ち振る舞いについていけず、少しづつ関係がギクシャクしていった。
犯人だった前田が逮捕され事件に一区切りが着いてから一週間ほど後に若田巡査部長は高橋とのコンビを解消した。
自分と釣り合う人間などいないのかもしれない。
高橋みなみは小さなため息をついた。 - くるん
くるん 高橋が戸ケ崎警視長に呼び出されたのは昼ご飯の途中のことだった。
「私が食事を邪魔されるのを一番嫌ってるのを承知の上で呼び出されたんでしょうね?」
「そういう嫌味な言い方はよせ。君の新しい部下を紹介しようとだな」
「私には部下は必要ないとお伝えしたはずですが」
戸ケ崎の言葉を遮るように、高橋は強めにそう言った。
「そういうわけにもいかんだろう」
「私とやっていけるような警察官なんかいない」
「それには激しく同意だが・・・とにかく紹介するから顔だけでも見てやってくれないか。もしかしたら気に入るかもしれん」
「お断りします」
「これは命令だ」
明らかにムッとした表情の高橋の前に、戸ケ崎警視長は新しい部下を呼んだ。 - くるん
くるん 部屋に入って来たのは小さめの女性だった。警察官の規則通り短めの黒い髪。スーツを着込んで服装こそきっちりとしているものの、表情にはまだ若干幼さが残っている。
「乃木坂署から来ました、生駒です!まだまだ新米ですが、よろしくお願います!」
笑顔を浮かべて元気よく挨拶する生駒に押され気味の高橋は、「よろしく」と呟いた。
「あれ?どうしたんですか、たかみなさん?元気ないですよ?」
「た、たかみなさん?」
高橋はすこし驚いて顔を上げると生駒は、
「高橋みなみ主任ってお呼びするの長すぎるなーって。だからたかみなさん、って呼ぼうかと」
「あのな、私は上司なんだぞ!友達とは違うんだ」
「すみません・・・たかみな主任
って呼んだ方がいいですか?」
高橋は大きなため息を一つついた。
「私に高校生のインターンシップの世話をしろ、ってことですか?戸ケ崎さん」
「生駒くんは高校生ではないぞ?きちんと試験をパスした大人の警察官だ」
「どうみても高校生とそんなに変わらないでしょう」
「私、高校生に見えますか?いっつも中学生くらいにみられるんです!」
生駒はとても嬉しそうな笑顔で高橋の手を両手で握った。
「私たち仲良くなれそうですね!」
「あ、ああ、そうだな」
「うれしいです!たかみなさん!」
軽く放心状態の高橋をぎゅっと抱きしめた。 - くるん
くるん 戸ケ崎警視長に呼び出されたのは、その日の午後だった。
「高橋、馬路須賀女学園で起きた事件については知っているな?」
「すでに話題になってますので、ある程度は」
「それなら話は早い。2人にはこの事件を担当してもらいたい」
「事件が起きた馬路須賀女学園は抜暮署管内だったと思いますが。そちらで捜査されるのでは?」
「確かにそうだが、諸事情で我々警視庁が引き継いで捜査することになった」
「もしかして馬路須賀女学園が怖いからですか?」
「それも一つの理由だ、生駒くん。でも理由は他にある」
「他の理由?」
「今回の事件の被害者は、渡辺友蔵の一人娘である渡辺麻友なのだ」
「渡辺友蔵って、あの、政治家の?」
「そうだ。少し前のスキャンダルを覚えているだろう?あれの渦中にあった人物で、次期総理とも言われている大物議員。それが理由だ」
「よく分かりませんね」
腕組みする高橋に戸ケ崎は言葉を探していたが、
「とりあえず、抜暮署で引き継ぎをうけ、渡辺友蔵議員に会って話を聞いてみることだ」
と言うのがやっとだった。