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橋場日月

かつて大阪北新地の西向かいの地下にバーがあった。地下にあるその店は、マスターがすべての客を初来店の際にカウンター越しで撮影することを習慣にしており、僕も初めて訪れた際撮られた。アルバムも置いてあり、飲みながらめくっていると偶然にも僕の父の若き日の写真もあった。 後日、大阪に再転勤して来た父を連れて行くと、父も自分の写真を懐かしげに眺めていた。 今思うと、それが父と店で飲んだ最後だった。 そのアルバムには、父の写真の少し前に石原慎太郎氏の写真もあった。 それらの写真群を見て痛感したのは、この若かりし頃の三國連太郎氏の写真のように、みな頰に一抹の緊張を宿し、瞳にはギラリとした野心のカケラを光らせ、口は真一文字に引き結び、我こそは日本の将来を担うという風情の、気持ち良い気負いと誇りをまとっていたことだ。 それこそ、いつもにやけておちゃらけて写ってしまう僕なんぞには真似できないあの時代の体現者たち。 不自由な事も多かった時代だろうが、魂の躍動を感じる時代。

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