【ケンブリッジ】 何とも情けない話なんだが、学校を卒業した後、就職先が無かった自分は吉原のソープ嬢に食べさせてもらっていた時期がある。 もちろんヒモって言葉にありがちな憧れはあったが、食べていくためには他に楽な選択肢を思い付かなかったというところ。若さはバカさ。トルストイの言った通りだ。 店の名はライフ、じゃなくてケンブリッジ。当時 彼女の源氏名どころかどの店で稼いでいるのかなんて全く興味がなかったのだが、今 調べてみると料金安めの大衆店なのが少し哀しい。 白系ロシアの血が入ってるのという怪しげな身の上話と合わせて自分には似合いの女だった。年増で本名はのり子。 昭和のカードが揃いすぎてる。 さて、同棲し始めの頃。 ある晩、何気に彼女が聞いてきた。 そういえば去年の今頃ってヒロシちゃん何してたの？ えっ、学生だよ。今年の春卒業したばっかりじゃんオレ。 あっそうかぁ、うひゃ。学生だったのねぇ～。うひゃうひゃ。にんまり。 自分はコドモだったからなぜ彼女が溢れる笑顔、相好を崩していたのか分からずにいた。 でも、大人になった今なら分かる。 池袋東口のビル7階ガールズバー・ロフトにいた自分は喧騒の中で質問していく。鼻の下を伸ばしながら。 ねぇねぇ、ひなちゃんて去年の今ごろ何してたぁ？ え～、わたしこの春卒業だったんですよぉ。卒業式中止になっちゃってぴえんなんですけど。きゃは。 あっそうかぁ、うひゃ。学生だったのかぁ～。うひゃうひゃ。にんまり。 歴史は繰り返す。 異論は認めない。 (写真は英国ケンブリッジ大学)