その小さな微笑みが語っている
観る人の想像を大いに掻き立てるすごい作品。
すべては役所さんの演技が物語っている。
役所さん扮する平山は東京都内にある様々なトイレの清掃員。そんな平山が朝目覚めるところから始まる。
何度となく平山の毎日のルーティーンが映し出される。
朝起きたらまず いつも通りに寝ていた布団を畳み部屋の隅に片付け、いつも通りに集めている芽吹いた新芽をスプレイヤーで愛で、いつも通りに身支度をし、いつも通りに壁の飾り棚から身の回りの物を携帯する。
何故か時計は身に付けないんだ。
仕事現場には車で向かい、今は珍しいカセットテープのミュージックを聴きながら小さな幸せをかみしめる。
そして仕事が終われば1度家に帰り、いつも通りに銭湯に行き、いつも通りにいつもの居酒屋で一杯ひっかけて帰り、いつも通りに本を読んで眠くなったら寝る。
休みの日には少し朝寝坊して、いつも通りのルーティーンをこなす。
そうなんだ。腕時計は休みの日にするんだ。
そして休みの日のルーティーンも、いつも通りにコインランドリーで洗濯をし、いつも通りに古本屋で気になる本を購入し、いつも通りに素敵なママのいる小料理屋に通う。
日々の生活の中に、小さな幸せを見出し、小さく微笑む。
その微笑みがいかに小さな満足を映し出しているか、その微笑みは平山が言葉を発しなくても、その表情で何故か伝わってくる。
しかし、平山が何故トイレの清掃員をしているのか。
何故今にも壊れそうな古いアパートに身を寄せているのか。
何故そんなにも無口なのか。
何も語られてはいない。
だからこれは観る人がどのように感じるかなのだ。
初めは声を発することが出来ないのかと思うほどの至極無口な平山。トイレの清掃員だが、その仕事ぶりから真面目できっちりした人となりも窺える。でも心の奥底では優しく親切でいい人。小さな幸せを噛み締めながら毎日を過ごすが、姪のニコが母親(平山の妹)と喧嘩し、平山を頼ってきたのをきっかけに、少しずつ平山の背景が透けて見えるような。
平山は割と裕福な家柄で育ったが、厳格な父親との間に何かしらの確執があって、今の生活をしていたのだろうか。
妹のケイコも娘のニコに話したがらないほどの何かがあったのだろうけど。
ニコを迎えに来たケイコを涙ながらに抱きしめていた姿が、何があったのかはっきり分からないにもかかわらず、観ているこちらまでも深い悲しみに落とす。
ほとんどセリフが無く、細かい背景も語られないまま、だがしかし役所さんの表情のみでここまで思いをめぐらせることが出来るのは、本当に驚いた。
脇を固める俳優陣も、素晴らしかった。
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