お母さんもお父さんも覚悟を決めたような顔をして伏せていた。 「待てよ…まだ、まだお前に言ってない言葉があるだろ！元気になったらまた言ってあげるって約束しただろ！頼む………頼むよ………」 無常にもメーターがどんどん下がっていく。 「なあ…海に行くって約束もしたよな。映画見て家でひたすら話してバカやってずっと笑っていようって約束しただろ…」 僕も覚悟を決めてあの時と同じように彼女の耳元で囁いた。

「愛してる…ありがとうこんな俺を好きになってくれて」 その言葉を待っていたかのように彼女は息を引き取った。 僕はその場に泣き崩れた。 あの温もりはもうない あの可愛い顔はもう見れない あの柔らかい肌はもう触れられない。 あの優しい声はもう聞こえない。 そう思うとさらに涙が込み上げてきた。 愛する人との別れがこんなにも辛いものだとは…。 僕は彼女のお父さんに支えられるように病室をあとにした。

それから数日後バイト先に顔を出して辞めると伝え、家に帰った。 「ただいま…」 帰ると僕のお母さんが待っていた。 お母さんはおかえりと優しく出迎えてくれた。 「今日友達が心配して来てくれたわよ…」 「学校行く気なれない…」 俺はそっけなく返し階段を登り部屋に戻り布団に倒れ込んだ。 そのまま死んだように眠ってしまった。 そこで夢を見た。 なんにもない真っ白な世界の真ん中に彼女がポツっと立っている。

彼女がむくっと起き上がったから僕も起き上がる。彼女が口を開いた。 「あのね…私のことはもう忘れて」 僕が返す。 「え…」 すると彼女が 「大丈夫。あなたならすぐいい女の人にあえるよそれに」 俺は彼女の言葉を遮るように言った。 「嫌だ…お前を忘れたくない…忘れられない…」 彼女は優しく僕の頬に手を当てた。 「じゃあ…忘れられるようにおまじないかけてあげる」 額と額を当てた。 そして目を閉じた。

彼女も涙を流していた。彼女はゆっくりキスをすると、僕の部屋が崩れ落ちて真っ白な世界に変わっていった。 なんにもないはずの世界の奥の方にひとつの扉があった。 「バイバイ」 彼女はひと言告げると扉に向かって歩き始めた。 そこで夢が覚めた。 彼女の感触がリアルに残っている。 僕は寝相がかなりいいほうなので全く動かない。 だから布団の暖かくなるはずのない部分。つまり彼女が寝ていた所が暖かくなっていた。

僕は何も言えなかった。 受け取った茶封筒には紙しか入っていないはずなのにずしりと重く感じた。 「あの…今からお線香あげに行ってもいいですか？」 彼女のお母さんはもちろんと快諾してくれた。 彼女の家に向かう途中お母さんに夢のことを話した。 するとお母さんも同じような夢を見たという。 一昨日の晩夢の中で 「お母さん。ごめんなさい…今まで育ててくれてありがとう」 そうしてどこかに消えてしまったらしい。

どこに行くかはすぐに察しがついたらしい。 「やっぱりあなたのとこだったのね」 そんな会話をしていると家に着いた。 家に上がり、仏壇の前に座る。 遺影の彼女が僕を迎えてくれる。 線香を１本供えた。 手を合わせていると彼女との色々な思い出がかけ巡った。 だけど不思議と涙は出てこなかった。 「俺、前向くよ…ありがとう最後まで面倒見られっぱなしだったな…もう行くよ。さよなら」

暑い夏に一つ気持ちいい風が吹いた。 あれは僕の空耳だったのかもしれない。 けれど確かに彼女の声が聞こえた。 「さよなら」 と。 夢ではバイバイだった。 待っててくれたのか。 ありがとう。 俺も前を向く。 学校にも行って、ちゃんとする。 お前の生きたかった今日を精一杯生きるよ。 だから安心してくれ。 俺は夏の空を見上げた。 入道雲が広がって夏らしい青空だ。 俺は明日に向かって歩き始た。

文もめちゃくちゃだけど楽しんでもらえたならw この話を稲川淳二の声で再生できたら感動できるんじゃないかなwww