【ある東大生の結婚式のスピーチ】 皆様、本日はご多忙の中、私たちの結婚式にご列席いただき誠にありがとうございます。 本来ならば私の両親によりこの式の最後の挨拶をすべきところですが、それは叶わず、新郎である私からご挨拶をさせていただきます。 まずは、このような素晴らしい式を挙げる機会を与えてくださった皆様に、心より感謝申し上げます。 さて、最後の挨拶として、私のこれまでの人生についてお話をさせていただければと思います。 私は、宮城県の漁港の街で暖かい両親のもとに生まれました。 4人家族で、父は漁師、母はパートで家計を支える主婦で、歳が離れた兄がいました。 決して裕福な家庭ではありませんでしたが、家族仲良く、毎日笑顔の絶えない家庭でした。 私が中学3年生の時でした。学校で体育の授業をしていると、大きな大きな地震が起きました。 その地震は何分たっても止むことがなく、いつもと違う異様な雰囲気を感じました。 「山へ逃げろ！」 そう叫ぶ先生に従い、学校から飛び出し遠い山へ向かって走りました。 真冬の寒空の下でしたが、自分の後ろのほうで黒い津波が建物を次々に飲み込んでいくのが見え、寒さを感じることもありませんでした。 山の近くの小学校で夜を明かしたあと、私は家があった場所へ向かいました。 どこに家があったのかすらもよくわからず、ただそれらしい場所を探して歩き、家の場所をみつけると、そこには何も残っていませんでした。 父がどうなったのか、母がどうなったのか、兄がどうなったのか、それは今でもわからぬままです。あの日から一度も会っていません。あれから一度も会っていない友人も多くいます。 きっとどこかで生きていると信じつつも、時間が経つとともにその思いもだんだんと小さくなっていくのが、とても寂しいです。