ところで私が小さい頃、私の父はお酒に酔うとよくこんなことを私に言っていました。 「誰もおめえの頭の中に入ってることは盗めねえんだ」 中学3年の時までその意味はよくわかっていませんでしたが、両親や兄弟、家や財産、友人をも失って、私はその意味を初めて理解しました。何が起きても、頭の中に残っていればまた作り出したりやり直すことが出来るんだと。 高校に入ってから、私は見違えるほどにたくさん勉強をしました。 本当にたくさん勉強しました。 どこかで父と母、そして兄にいつかまた会えた時に、立派な自分でいたいと思っていたからです。 勉強をしたのは学校の科目だけではありません。紐の結び方や、安い食材で美味しい食事を作る方法、避難所で知り合った職人の小野寺さんにはプータロー時代の貧乏旅行の秘伝などを教わりました。いろんなことを教えてくださった周りの方に感謝の気持ちが絶えません。 街にあった小さな本屋も流され店主のおじさんも亡くなってしまい、さらにお金もなく参考書を買うこともできなかった時、家にあった参考書を好きなだけ持って行かせてくれた1,2年生のクラスが同じだった三浦くんにはとても感謝しています。 三浦くんの亡くなったお兄さんが残していってくれた多くの参考書だったのですが、形見であるにもかかわらず差し出してくれたことは本当に感謝しています。 避難所でもらったソニーの手回しラジオは、その後NHKラジオ英語講座を使って英語を勉強するのに役立ちました。私の住んでいる街には、外国人もいなければ英語で話す人も、英語を話せる人もほとんどいません。 東京に来て、外国人と話す機会が多いことや、英字新聞や英語を学ぶ場所が多いことには非常に驚きました。 NHKラジオの「実践ビジネス英語」の杉田敏先生のことは声しか知りませんが、電池代もかからず安く勉強をさせてくれたソニーと、安価で質の良い英語教育を受けさせてくれたNHKラジオの皆さんに感謝しています。