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渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

昨年、高等部の時にお世話になった先生の旦那さまが亡くなったというお知らせを聞いた。 先生は私と同じろう者で旦那さまもろう者だった。享年79歳。 先生のお宅に二度ほど行ったことがあるが、リビングに向かう途中でドアが少し開いている部屋があり、少しのぞいてみるとアトリエらしき部屋だった。 先生の旦那さまは画家だった。 印刷関係の会社で勤務する傍ら、画家の活動を続けていた。賞をとることはほとんど無かったが、ろう者関係の団体いくつかにご自身の絵画を寄贈していたとのこと。 片手で数えられるぐらいしかお会いしたことがないが、とても穏やかな方だった。寡黙な方だが、時々発する言葉に重みが感じられた。 ろう協会主催の講座でご一緒したことがあり、講座の最後に私が前に出て質問して席に戻って来た時、 ほとんど言葉を発さない彼がにっと笑い、 「良い質問だった」 と言ってくださった時は大変嬉しかった。 昨日、先生のお宅にお邪魔することになり、初めて旦那さまのアトリエに足を踏み入れ、様々な絵を目にすることになった。 実際に見る絵には迫力がある。魅力がひしひしと伝わってくる。なんて素晴らしいんだろう、と思った。絵のことには疎いが、本当にステキな絵だった。 亡くなってから知るということ、なんだかやりきれない気持ちになる。亡くなられたからこそ付く箔があるのか?亡くなられたということが付加価値のようなものになっているのか? それは否めないけど、旦那さまが亡くなられた後知るというのも意味があるのだと思う。 旦那さまはガンを患っていて、緩和ケアという選択をとっていたそうだ。 先生と旦那さまは子供が居らず、おしどり夫婦のごとく仲睦まじいご夫婦だった。そして、先生のことを本当に想っていた。たぶん、先生が旦那さまを想うよりもずっと。 ご自身の命が残り少ないと分かった時、先生のために色々話を進めていたが、先生はまさかすぐに亡くなるとは思わなかったそうだ。 様子が異変した時、旦那さまの意識はしっかりしていた。先生が救急車を呼んだ方がいい?と聞いた時、旦那さまはそれがいい、と言ったので救急車を呼んだ。 救急車が来るまでの間、先生は着替えとか色々準備をしていた。そして、救急車が来て一緒に病院へ行き、その場で入院することになった。 その時、旦那さまが「身体障害者手帳はあそこにある」と言う。入院手続きを取らなければならないのは分かるけど、身体障害者手帳のありかより、自分の体のことをかんがえてください!と先生は言った。 入院手続きをとり、病室に戻ると、旦那さまは眠っているかのように穏やかな顔をして目を瞑っていた。まさか…と思ったが、やはりもうすでに亡くなっていた。 先生は呆然としてしまった。 しばらくして、色々な手続きをとるために、旦那さまの障害者手帳を出して開いてみると、そこに小さなメモが挟んであった。 そこには、旦那さまから先生への言葉が綴られていた。 先生は私にそのことを教えてくれ、身体障害者手帳に入っていた小さなメモを見せて下さった。内容はよく覚えていない。私の涙があふれてしまったからだ。アトリエで見かけた走り書きのような文字とは違った、一字一字に気持ちが込められている、とても重みのあるメモだった。 先生が救急車を呼んで準備している間に書いたのではないか、ということだった。もう自分はダメだ、ということがわかっていたのかもしれない。

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渡辺 貴子(「ろう文学」編集&発行人)
トーク情報
  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    「一日遅れのホワイトクリスマス」

    あなたのことを思って
    眠れないでいる夜
    思わせぶりな態度に
    少しだけ腹が立つけど
    あの日あなたと交わした視線
    心がときめいた想いは
    何ものにも変えられないの

    やめた方がいいなんて
    分かっているけど
    止められないこの想い
    ちょっとだけでも
    あなたを感じたくて
    「今」という時を
    もっと味わいたくて

    胸が張り裂けるこの想い
    ほとぼりが冷めるまで待つ
    なんてそう言うけど
    永遠に来ないように思えるよ

    あなたのことを想い
    あなたからの連絡を待って
    夜を明かすクリスマス

    「今 雪が降っているよ」
    夜明けに届いたあなたのメッセージ
    それだけで私が見える景色は
    真っ白になってきらめく
    一日遅れのホワイトクリスマス


    (「今、雪が降っているよ」とメッセージを下さった方がいて、そのメッセージが良かったので作詞してみました😊)

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    見城さんがこの世に生まれて来たからこそ
    「ろう文学」がある
    見城さんが生きていなかったら
    私は見城さんのことを知らなかった
    ましてや
    編集者になろうと思わなかっただろう
    「編集者の病い」で私は衝撃を受け
    編集者を考えていた私の背中を押してくれた

    時々、755を訪れては
    見城さんの文章を読んで
    自分の気持ちを奮い立たせてきた
    間が空くこともあったけど
    何かあると見城さんの投稿を読んできた

    そうして規模が小さいけれど
    色々な方に見ていただけて
    ろう文学を作ってくれてありがとう
    と言って下さることも増えてきた
    ろう文学のおかげで
    自分を日本語で表現することが出来た
    と言って下さることも
    私は ろう文学を通して
    一人一人の生き方に
    灯りをともすことが出来ているのが
    とても嬉しく 有難く思う

    それも見城さんが生きているから
    出来ること
    本当にありがとうございます、
    と空間に向かって頭を下げる
    見城さんにはあまり
    響かないかもしれないけど
    私は感謝の気持ちを言い続けて行く

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    私を利用して下さい
    私を踏み台にして下さい
    私を利用して上に上がっていって欲しい
    手話学習者の皆さんに向けて
    そういう話をしたのだが
    その時、私は「あげまん」という言葉を使った
    あえて使ったのだ。
    あげまんになりたいと。

    ろう文学だって
    私が本を作るから
    聞こえない皆さんは私の本を利用して
    自分のことを表現して下さい
    という気持ちなのだ

    あげまんの他にこれ、といった言葉が
    今は見つからない
    その言葉はちょっと、、気をつけた方がいいよ
    と心配して言って下さった方がいたが
    実は私、「性」のことも絡めたかった
    現実的な肉体ではなくて
    精神的な「性」という意味で言いたかった
    目に見えないところで繋がっているからこそ
    私のことを利用して、と。

    自分にしか分からない感情かもしれない
    わざわざ「あげまん」という言葉を
    使うことなかったかもしれないけど
    それが私らしいのではないかと。

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    宇宙は広い
    そんなこと知ってたけど
    太陽系のような銀河系が1000億あると
    知った時は衝撃的だった
    1000…いや100あるだけでもすごいのに
    1000億?!
    宇宙の広さは私の想像以上だった

    広大なんて言葉では言い尽くせない
    宇宙の果てしない広さ
    そんな宇宙から見たら地球なんてほぼ無いに等しい
    砂浜にある砂の一粒のようなもの
    いや、それよりももっと小さい

    私たちは自分が世界の中心だと思ってる
    それも間違いではない
    すべてミクロでありマクロでもあるのだから

    そんな宇宙の中で私はどう生きるべきか
    宇宙の広さを知ってしまったら
    私の頭の中で考えていることなんて
    本当にちっぽけなもの
    自分の頭では考えられないような
    想像もつかないような世界が
    無数にあるのだ

    それでも私はやっぱりあがくのだ
    もがき続けるのだ
    たくさん悩んで
    たくさん愛して
    この命の限り精一杯生きるのだ
    それが人間であり
    生きていることなんだと思う

    宇宙から見たら
    人の生死なんてちっぽけなことなのかも
    生死を超えた何かが宇宙にはあるだろうなと
    想像は付くけれど
    私はこのちっぽけな頭で
    たくさんのことを思って
    たくさんのことを感じて
    「生」を味わい尽くすんだ

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    年が離れているのは離れているけど
    彼が生きている時代に私は生まれてきた
    彼が生きている間に私はこうしてここにいる
    それがとても重要だと思う

    先人から学べることは沢山あるけど
    同じ時代に生きていて
    こうして息づいていることが
    すごいことであり重要なことだと思う

    宇宙から見たら
    生死は関係ないかもしれないけど
    私はやっぱり
    生きている間になんとかしたい
    私なりに精一杯の「ありがとう」を
    伝えたい

    「生きていて下さって
    本当にありがとうございます」

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    私、バカになりたかったんだ
    といってもやる時はちゃんとやる、そんなバカ

    私、優等生で居たくなかったんだ
    何言ってんの?って突っ込まれるような
    そんなバカになりたかったんだ

    振り幅の大きい人間、
    そんな人間に魅力を感じて
    憧れの気持ちを抱いていたんだ
    今 気づいた

    言わなくていいようなことを言ったり
    書かなくていいようなことを書いたり
    私はバカな性格面を持っていたかったんだ
    いや、もうすでに自分にあったけど
    気づかなかっただけだ
    あるいは、少し前まで
    そんな面にフタをしていただけだったんだ

    二面性のある、しかも振り幅のある人間
    めちゃくちゃ憧れるし、そんな人になりたい

  • 渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)
    渡辺貴子(「ろう文学」編集&発行人)

    なぜ彼が私の前に現れて来たのか
    分かった
    今の私にとって必要なものが入ってきたから
    それと同時に悟った
    彼はもう二度と私の前に現れないと

    今の私に必要な情報
    彼が居なければ知り得ることがなかった
    私が彼に興味を持たなければ
    知り得ることのなかった情報
    だから彼が私の前に現れたんだ
    そして
    彼の私に対する役目は終わった

    とても寂しい こんなにも寂しいなんて
    「ありがとう」って思うべきなのに
    寂しい気持ちが打ち勝ってしまう

    別れがあるから新しい出会いがある
    そのフレーズが頭に浮かんできた
    全くその通りだし 新たな目標も出来た

    だけどやっぱり寂しい
    私のエゴだけど 寂しいものは素直に寂しい
    ただそれと同じくらい彼の幸せを願ってる
    何年か後になってもいいから
    またどこかで会えますように
    その時は笑って話せますように