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ロングコートダディ堂前

1月6日(月) 昔よく行っていた居酒屋へ。 大将は僕のことを覚えてくれていたらしく、 「おう、久しぶり」と愛想良く笑ってくれた。 注文をして待っていると 「あいよ、これはサービスだ、スーパーヒーロー」 と、だし巻きを僕の前に置いてくれた。 スーパーヒーローとは何のことだろうと一瞬思ったが、思い出した。 大将には、僕が芸人であるという事は言っておらず、 道に飛び出した子供を助けたり、 身動きのとれなくなった子猫を助けたりして 警察から感謝状を貰い その感謝状をメルカリに出して 生計を立てている と、言ってしまっていた。 しかし、この嘘をついてしまったのは もう1年半ほど前の話。 大将に本当の事を言おうか迷っていると 「最近のヒーロー話、聞かせてくれよ」 と言ってきたので 思わず 「家の全ての部屋にスズメバチの巣が出来てしまったおばあさんを救いました。」 と嘘をついてしまった。 大将は 「ほっほ~!そりゃすげえな!」 と言い嬉しそうにしてくれた。 「もういっちょサービスだ、スーパーヒーロー!」 と、小さいメンマを出してくれた。 もっともっと話聞かせてくれよ、と大将は子供のようなキラキラした目で言ってくる。 僕はありもしない事をペラペラと話す。 しばらくするとまた 「ほれい、サービスだスーパーヒーロー!」 と、小皿にマヨネーズを出したやつを出してくれた。 サービスがどんどん落ちていくのは、 いつもの事だ。 いつも最終的に「サービスだ!」と言って 小さい氷とかが出てくる。 いつも通りの変わらぬ大将に安心する。 だが トイレに行き、ふと壁に目をやった時に おどろいた。 壁に 僕たちの単独ライブのポスターが貼られていた。 席に戻り、大将に 「あのトイレのポスターって」 と言うと 「ああ、なんか娘が芸人好きでよ、 そのポスターなんだってよ、 なんか壁に貼りてぇと思ったから よく知らねえけど貼ってんだ」 と大将は言った。 僕は 「へ~そうなんですか」 と言ったが 大将に娘なんていない事を知っていた。 まず結婚もしていないだろう。 その後 僕が特に何かを言うわけでなく 大将も僕に何かを言うわけでなく 二人ともそしらぬ顔でお酒を呑んだ。

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