見城徹のトーク
トーク情報見城徹 見城徹見城徹
作曲 三枝成彰、台本 林真理子、演出 秋元康、 美術 千住博、指揮 大友直人、主演 大島幾雄、佐藤しのぶのオペラ[狂おしき真夏の一日]を上野の東京文化会館大ホールで観た。
いやあ、これが素晴らしかった。気が付いたら、客席でブラボーと叫んでいた。正に「狂おしき真夏の一日」。恋はいつだって共同体の倫理や道徳を、いや、法律だって突破する。背徳の快楽が身体を差し貫き、頭の中はクレイジーな妄想で溢れ返る。出演者たちの髪型がその爆発を象徴している。三枝成彰の音楽と林真理子の台本と秋元康の演出が見事に絡み合い、化学反応を起こし、炸裂して圧倒的でエキサイティングな人間賛歌の宇宙を創り出した。音楽と歌声に酔い痴れ、セリフに痺れ、演出に唸り声を上げた。何というオペラの本道!オペラは大衆演劇であり、猥雑なエネルギーの噴出であり、生きることへの賛歌であることをまざまざと見せつけられた。これぞ芸術。4日間の公演ではあまりに惜しい。有難う、主催のテレビ朝日、BS 朝日、朝日新聞、メイ・コーポレーション、協賛した企業の皆様。
今も車の中でメロディーと歌声が身体中を駆け巡る。沢山の人に観てもらいたい。再演を、よろしく!見城徹 見城徹見城徹 ⬆︎ さて、この写真の話です。隣のオペラ界を代表するプリモ・バリトン、桐朋学園大学教授の大島幾雄さんとは清水市吉川にあった小糸製作所静岡工場の社宅で子供時代を一緒に過ごしました。同じ棟のアパートの同じラインの大島幾雄さんの家が3階、僕の家が1階でした。小学校生、中学生時代、一年上の学年の幾雄さんは僕とよく遊んでくれました。母親同士も仲が良く、僕は幾雄さんの家に上がり込んで時間を過ごしたものです。勉強が凄く出来、音楽の才能にも溢れていた幾雄さんは僕の憧れでした。10年以上前、大島幾雄さんの二期会オペラの舞台パンフレットに頼まれて「懐かしい兄よ」(集英社文庫「編集者という病い」所載)という文章を寄稿させてもらいましたが、どうしても公演に行けず、再会は果たせませんでした。
それが今日、実現した訳です。約50年振りです。もう泣きそうでした。しかも僕が幾雄さんが主役だと知ったのは舞台に向かう車の中です。あの清水市の社宅の片隅で無心に遊んでいた二人が50年して舞台の主役と主催者側の大事な客として相まみえる。あのマッチ箱のような社宅から二人とも遠くまで来たんだなあ、と思います。これを奇跡と呼ばずして、何と呼びましょう。
*「大事な客」という表現をお許し下さい。