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見城徹

ぼくはかきとめておこう 世界が 毒をのんで苦もんしている季節に ぼくが犯した罪のことを ふつうよりも すこしやさしく きみが ぼくを非難できるような 言葉で ぼくは軒端に巣をつくろうとした ぼくの小鳥を傷つけた 失愛におののいて 少女の 婚礼の日の約束をすてた それから 少量の発作がきて 世界はふかい海の底のようにみえた おお そこまでは馬鹿げた きのうの思い出だ それから さきが罪だ ぼくは ぼくの屈辱を 同胞の屈辱にむすびつけた ぼくは ぼくの冷酷なこころに 論理をあたえた 論理は ひとりでにうちからそとへ とびたつものだ 無数のぼくの敵よ ぼくの苛酷な 論理にくみふせられないように きみの富を きみの 名誉を きみの狡猾な 子分と やさしい妻や娘を そうして きみの支配する秩序をまもるがいい きみの春のあひだに ぼくの春はかき消え ひょっとすると 植物のような 廃疾が ぼくにとどめを刺すかもしれない ぼくが罪を忘れないうちに ぼくの すべてのたたかいは おわるかもしれない ーー吉本隆明[ぼくが罪を忘れないうちに]

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